遺言書を残したほうが良い場合
実際の家族付き合いとは関係なく,血筋によって遺産の相続関係が決まります。
そのため,大金持ちではない普通のご家庭でも遺言書を残しておかないと,相続が発生した場合にのこされた遺族のみなさんがとても困ったことになる場合があります。
例えば,次のようなケースの場合
夫と妻の二人暮らし。子供はいない。夫には6人兄弟がいる。そのうちの二人は亡くなっていて,それぞれ子供が2人ずついるという場合。両親は既に他界している。
このケースで夫が亡くなると,相続人は誰でしょうか?配偶者である妻は常に相続人になります。そして他に,相続人がいる場合はそのものと同順位になります。(民法第890条)
次に相続人の順番は①子②両親③兄弟姉妹となりますが,子供はいなく,両親も他界(もちろん,それより上の祖父母も他界)しているので③の兄弟姉妹が同順位で相続人となります。(民法889条1項)
さらに兄弟のうち2人がなくなっているので,彼らの子供達も代襲して相続人になります。(889条2項,887条2項)
ということで,妻,兄弟4人と甥姪ら4人が相続人になります。
妻は相続財産の3/4は相続できますが,残りの1/4は,これらの相続人たちが放棄や譲渡してもらうか,兄弟姉妹の法定相続分を兄弟姉妹に相続財産から渡さないと不動産の名義変更や預金の払い戻し等はできないことになります。
そこで,このようなトラブルにならないようにするために「遺言書」を作成しておく意味があるのです。
遺言書には,①自筆証書遺言②公正証書遺言があります。その他にも種類がありますが,割愛します。
自筆証書遺言は,全文手書きで,日付と署名捺印がされていれば良いとされていますが,これらの方式を一つでも欠くと無効になります。
また,自筆証書遺言は家庭裁判所での検認手続きが必要なため,上記のケースのように相続人が多数いる場合には戸籍や除籍が大量に必要になるのと連絡先を調べなければならないので大変です。
公正証書遺言は公証役場で公証人の面前で2人以上の証人の立会いの下,あらかじめ公証人に伝えた遺言内容を公証人が遺言の内容を遺言者や承認に読み聞かせ確認した上で作成されます。(民法969条)
この方法ですと手数料はかかりますが,家庭裁判所の検認は不要で間違いはまずなく安心できます。
ということで,遺言書を作成する場合には公正証書で作成されることをお勧めします。
ただし,上記のようなケースは兄弟姉妹が相続人ですので遺留分がないため,遺言書ですべて配偶者である妻に相続させることができます。子供と両親などの直系尊属が相続人の場合には遺留分があるので,全部を相続させることはできません。ですが,ケースにもよりますが,法定相続分よりは多く相続させることができますので,遺言書を作成する意味はあります。